テクニカルレポート

無機系ドライフィルム剥離プロセス RS-093

電子分野

総合研究所 電子技術開発部 泉谷 美代子 Miyoko IZUMITANI 文蔵 隆志 Takashi FUMIKURA

はじめに

スマートフォン等の電子機器に搭載されるプリント配線板の配線形成プロセスは、エッチングにより銅配線を形成するサブトラクティブ工法と、めっきにより銅配線を形成するSAP(Semi-Additive Process)やMSAP(Modified Semi-Additive Process)に大別でき、いずれの工法においても銅配線を形成する際にドライフィルムレジスト(以下、DFR)がマスクとして用いられる。銅配線形成後は不要となったDFRを剥離する必要があり、サブトラクティブ工法は、比較的配線幅が大きいため水酸化ナトリウム(NaOH)等を主成分とした無機アルカリ水溶液で容易に剥離できるが、SAPおよびMSAP工法は配線幅が微細、かつDFRが銅配線にはさまれる構造となるため、DFRの剥離が困難となる(図1)。このため、SAPやMSAP工法のような微細な配線を形成する際には、無機アルカリ水溶液より剥離性の良いアミン系剥離液が多く使用されている。

図1 プリント配線板の配線形成プロセス(イメージ)

しかしながら、アミン系剥離液は廃液処理が難しく、中国やベトナム等の海外の法規制も厳格化していることから、その使用が避けられつつある。
当社はこれまでにも上述課題解決のために、剥離性の向上および低環境負荷を目的に開発を行ってきた。今回、NaOHを主成分とし、微細配線における高い剥離性能、優れた廃液処理性を両立した「RS-093」を開発したので紹介する。

製品の特長

「RS-093」の開発コンセプトは、環境に配慮したDFR剥離液である。使用の際は、無機アルカリ水溶液に添加剤を加えることで剥離液稼働浴となる。
「RS-093」の主な特長は次の2つである。

汎用性の高いNaOHベースで優れた廃液処理性能

添加剤成分に窒素(アミン等)、リン、毒物非含有であり、廃液処理の指標の一つであるCODcr(Chemical Oxygen Demand Cr)はアミン系剥離液の15分の1程度である(建浴時における当社製品との比較)。

剥離性能が良好

添加剤の効果により剥離液の浸透性を向上させることで、無機アルカリ水溶液では剥離できない微細配線間のDFRを剥離することが可能である(図2)。

図2 微細配線間におけるRS-093の剥離性能(イメージ)

添加剤の効果

露光・現像後のDFR表面に無機アルカリ水溶液と「RS-093」を滴下した。表1に両者を滴下した直後および常温放置後の経時変化を示した。まず、滴下直後の状態を比べると、「RS-093」はDFR面に対し、薬液が広がっていることを確認した。また、放置後の状態を比べると、「RS-093」の方がDFRへの浸透・膨潤が促進されていることを確認した。このように、「RS-093」は添加剤により薬液の浸透性を向上させることで、微細配線間のDFRの剥離性を向上させることが可能である。

表1 剥離液を滴下したDFR表面の経時変化

MSAP工法基板に対するDFR剥離性の比較

表2に無機アルカリ水溶液(NaOH:3%)および本開発品「RS-093」におけるMSAP工法基板のDFR剥離性の比較を示す。DFRは一般で市販されている厚み:25mmのものを用いた。無機アルカリ水溶液(NaOH:3%)ではL/S = 20/20、15/15 (mm)共に剥離できなかったが、「RS-093」はL/S = 20/20、15/15 (mm)の微細な配線においてもDFR剥離が可能であり、残渣がないことを確認した。

表2 MSAP工法基板のDFR剥離性の比較

廃液処理性

無機アルカリ水溶液の廃液処理フローのイメージを図3に示した。DFR処理ラインで使用した剥離液は廃液回収槽に送られ、酸によりpH調整を行う。その後、無機凝集剤および有機凝集剤を用いて凝集させ、沈降処理を行うことで、溶出した有機成分の除去が可能である。
一般的に、アミン系のDFR剥離液は図3のような処理が難しいため、CODcrも高くなる。一方で、「RS-093」は、図3の廃液処理によってDFR溶出成分の沈降が可能である。DFRを溶解させた「RS-093」の廃液処理前後の外観を図4に示した。廃液処理により成分の一部が沈降し、沈降処理後のCODcrはアミン系剥離液の15分の1程度であることを確認した。

図3 廃液処理のフロー(イメージ)
図4 「RS-093」の廃液処理前後の外観

おわりに

今回紹介した「RS-093」は低環境負荷の剥離液であり、NaOHを主成分とした無機アルカリ水溶液に添加剤を添加するだけでDFRの剥離性を向上させることができる。今後、より一層求められる微細配線化と環境対策、双方への対応に貢献できるプロセスであると考えている。