環境負荷低減・装飾用表面処理プロセス JEOLUMIS® (ジェオルミス)JEOLUMIS®MSE-300, 600,JTC Series, KS-10
総合研究所 CS基幹技術部 冨田 和仁 Kazuhito TOMITA 池田 暢宏 Nobuhiro IKEDA
はじめに
従来、自動車部品や水栓部品を製造する際、めっき技術が用いられている。しかし、めっき処理を施すための薬品中には6価クロムをはじめとする様々な環境負荷物質が使用されている。近年、市場における環境意識は高まっており、環境に対する取り組みは必要不可欠となってきており、当社においても自然環境に悪影響を及ぼす物質や人体に有害な物質を極力使用しないこと、省資源化に貢献することを目的として製品開発を進めている。今回、早期の市場定着を目指し、環境負荷低減を目的とした表面処理薬品の新ブランド「JEOLUMIS®」(図1)を立ち上げた。
本稿では、6価クロムフリーエッチングプロセス「JEOLUMIS® MSE-300」、窒素フリー無電解ニッケルめっきプロセス「JEOLUMIS® MSE-600」、3価クロムめっきプロセス「JEOLUMIS® JTC Series」および6価クロムフリー化成処理プロセス「JEOLUMIS® KS-10」の計4プロセスを紹介する。
※「JEOLUMIS®」はギリシャ語の「GEO:地球」とラテン語の「LUMEN:光、明るさ」を合わせた造語であり、地球の明るい未来を願う意を表している。

6価クロムフリーエッチング:JEOLUMIS® MSE-300
従来の樹脂めっき(Plating on Plastics:以下、POP)工程においては、前処理に有害とされる6価クロム化合物を含むクロム酸エッチング浴が用いられている。また、一部の樹脂材料に対しては、湿潤剤として有機フッ素化合物(Per and PolyfluoroalkylSubstances:以下、PFAS)が使用されている。当社ではこれら環境負荷物質の低減を目的に、6価クロムおよびPFASを使用しない、過マンガン酸を用いた多段エッチングプロセス「JEOLUMIS® MSE-300」(以下、MSE-300)を開発した。
図2にMSE-300によるエッチング(2,3サイクル)後とクロム酸エッチング後のABS樹脂表面のSEM像を示す。サイクル数の増加に伴い、クロム酸エッチングに類似した表面形状を得ることができる。また、ヒートショック試験(-30℃、60分→80℃、60分・・・20サイクル)においてフクレやクラックの発生しない良好な密着性も得ることができる。

なお、今回多段工程を採用したことにより、当社旧検討浴(83、86号参照)と比較して浴安定性が改善され、浴管理の簡略化が可能となった。これにより、大規模な電解再生装置を使用せずに省電力化が可能となり、カーボンニュートラルへの貢献も期待できる。
窒素フリー無電解ニッケルめっき:JEOLUMIS® MSE-600
POP工程における下地処理として、樹脂素材表面には化学反応によって薄いニッケル被膜を形成するプロセスが用いられている。一般的にPOPに用いられる無電解ニッケルめっきプロセスは、pH調整や薬液の安定化のために高濃度のアンモニアが含まれているが、高濃度のアンモニアが薬液中に含まれていると、排水処理が困難であることが課題となっており、実際に中国では窒素排水規制が導入されるなど、薬液中にアンモニアを含まないプロセスの需要が高まっている。当社ではこのような背景から、アンモニアをはじめとした窒素化合物を含まない窒素フリー無電解ニッケルめっきプロセス「JEOLUMIS® MSE-600」(以下、MSE-600)を開発し、市場に展開している。
図3にMSE-600およびアンモニア浴(従来浴)で処理しためっき被膜の表面SEM像を示す。MSE-600を用いて処理した被膜はアンモニア浴(従来浴)と近似の析出形状であることが確認できる。

図4にMSE-600で処理を行った無電解ニッケルめっき後の外観写真を示す。表面はもとより裏面の奥まった箇所においてもつきまわっており、均一なつきまわり性能を有することが認められる。

なお、アンモニア不使用であるため、特有の刺激臭が無く作業環境の改善も可能である。さらに有害物質である鉛も不使用であり、アンモニア浴(従来浴)同等以上の浴安定性も有するなど、環境対応、製品性能ともに優れた特長を持つことから、市場展開を推し進めている。
3価クロムめっき: JEOLUMIS® JTC Series
POP工程における最外層めっきは、その優れた外観、耐食性、被膜硬度の特性から、長らく6価クロムめっきが用いられてきたが、エッチングと同様に6価クロム代替技術が求められている。当社では、6価クロムめっきに匹敵する耐食性を示しつつ、従来とは異なるカラーバリエーションを備えた3価クロムめっきプロセス「JEOLUMIS® JTC Series」(以下、JTC Series)の4プロセスを展開している。
図5にJTC Seriesにおけるめっき被膜の色調の測定結果(L*a*b*表色系)を示す。

各3価クロムめっきプロセスの特長は下記の通りとなる。
- JEOLUMIS® JTC-WH2:白色3価クロムめっきプロセス
CASS耐食性に優れるほか、いわゆるロシア腐食耐性を示す。 - JEOLUMIS® JTC-WS(以下、JTC-WS):白色3価クロムめっきプロセス
6価クロムめっき被膜と近似色を有する。 - JEOLUMIS® JTC-BK(以下、JTC-BK):黒色3価クロムめっきプロセス
青味のある黒色外観を有し、耐食性に優れる。 - JEOLUMIS® JTC-BKM:深黒色3価クロムめっきプロセス
JTC-BKより黒味を増した外観が得られる。
6価クロムフリー化成処理:JEOLUMIS® KS-10
POP工程における最外層の3価クロムめっき被膜の耐食性を向上させることを目的に、後処理の化成処理プロセスにおいても6価クロム(電解クロメート)が用いられている。しかし、有害とされる6価クロムを使用していることに加え、プロセスによっては外観が暗く、黄色く変化してしまう課題が生じている。
今回開発した6価クロムフリー化成処理プロセス「JEOLUMIS® KS-10」(以下、KS-10)は6価クロムが不使用であり、簡便な浸漬処理が可能で、下地3価クロムめっき被膜の外観を変化させることなく、高い耐食性を得ることができるプロセスとなる。表1に異なる下地に対する後処理前後の色調測定結果、図6に異なる下地に対する後処理前後の耐食性試験結果を示す。なお、色調測定には現行の電解クロメート被膜、耐食性試験には現行の6価クロムめっき被膜をそれぞれ比較条件として用いた。


表1より、いずれの3価クロムめっき被膜に対しても、KS-10による処理後の色調は電解クロメート処理と比較し色調変動が小さいことがわかる。また、図6からはいずれの3価クロムめっき被膜に対しても、KS-10による処理を施すことによりCASS耐食性が向上し、従来の6価クロムめっき被膜と同等の耐食性を得られることが確認できた。
おわりに
今回紹介した新ブランド「JEOLUMIS®」は、社会全体の課題である環境問題の解決に貢献できるプロセスであると考える。当社としては、環境負荷低減に貢献できる新技術の研究・開発を継続しつつ、早期市場定着を目指していく所存である。