装飾用白色3価クロムめっきプロセス JCU-TRICHROM JTC-WH2
総合研究所 開発統括部
基幹技術開発部 森川 雄斗 Yuto MORIKAWA 中上 まどか Madoka NAKAGAMI
はじめに
自動車や装飾品の仕上げに施されるクロムめっきは、性能やコストに優れる 6価クロムめっきが主流である。しかし、6価クロムめっきは近年の環境問題への意識の高まりにより、人体や環境に悪影響を及ぼすため規制対象となっていること(環境面)、また、融雪剤を使用する地域でのめっき腐食(ロシア腐食)が問題となっていること(性能面)から、代替技術が求められている。
その解決策として3価クロムめっきが注目されている。
3価クロムめっきでは生産時における有害な6価クロムミストの発生がなく、作業員への健康障害や大気汚染がないため、6価クロムめっきの代替技術として注目されている。当社では、これまでに CASS 耐食性および耐塩害性 (融雪剤を使用する地域での耐食性)の両者を満足させる、装飾用白色3価クロムめっきプロセス「JCUTRICHROM JTC-WH (以下JTC-WH)」を開発している。
本稿では、JTC-WH を前身として、新たに開発した装飾用白色3価クロムめっきプロセス「JCUTRICHROM JTC-WH2 (以下JTC-WH2)」について紹介する。本プロセスは、従来の JTC-WH と比較して更に性能面、管理面に優れたプロセスである。
特長
JTC-WH2 の特長を以下に記す。
- 有害な6価クロムを含有しない、装飾用の白色3価クロムめっきプロセスである
- 既存プロセス JTC-WH よりも明るい色調のめっき外観が得られる
- 皮膜の耐食性に優れ、特に耐塩害性 (耐ロシア腐食性) に優れる
- 析出速度が良好で、6価クロムめっきよりも均一電着性に優れる。また、つき廻り性に優れている
- めっき液の分析管理が可能である。(数値管理が可能)
使用条件
表1および表2にJTC-WH2プロセスの浴組成、作業条件を示す。
性能
1)ハルセル外観および膜厚分布
図1に JTC-WH および JTC-WH2 のハルセル外観を示す。ハルセル試験の条件は共に標準条件とし、全電流5A、めっき時間3分で評価した。
JTC-WH2は、JTC-WHと比較してより低電流部までめっき皮膜が析出しており、優れたつき廻り性を有することが示唆された。
また、得られた皮膜からは均一な白色外観であることが確認された。
図2に6価クロムめっきおよび JTC-WH2の膜厚分布を示す。ハルセル試験の条件は共に標準条件とし、どちらも全電流5A、めっき時間3分で評価した。
図2より、6価クロムめっきでは電流密度が高くなるにつれて膜厚が厚くなるのに対し、JTC-WH2では8A/dm2以上の膜厚がほぼ均一となることが分かる。このことから、JTC-WH2は6価クロムめっきよりも均一電着性に優れることが確認された。なお、めっき時間を延長すれば厚膜化することは可能である。
2)色調 (L*a*b* 表色系)
図3に L*a*b* 表色系の模式図を、表3に測定結果を示す。JTC-WH2の色調は色彩色差計 (コニカミノルタ社製:分光測色計CM-700d, SCI モード) を用いてL*a*b* 表色系に基づいて数値化した。
3)耐食性
①CASS 試験
表4にCASS試験を実施してサーフェイスピットレイティングナンバーで評価した結果を示す。この際、CASS試験を40時間実施したサンプルの膜厚はCu: 12μm、Ni: 8μm、Cr: 0.15μmとし、80時間実施したサンプルの膜厚は Cu: 20μm、Ni: 15μm、Cr: 0.3μm とした。なお、JTC-WH2に関してはクロムめっき後に電解クロメート処理 (E-500) を0.1A/dm2-1分の条件で行った。
表4より、JTC-WH2は6価クロムめっきと同等のCASS 耐食性を有することが確認された。
②ロシア腐食試験
図4に耐塩害性評価試験後の外観、表5に耐塩害性評価結果を示す。
評価用サンプルの膜厚条件は、Cu: 20μm、Ni: 15μm、Cr: 0.3μm とし、それら試験片に融雪剤として使用される塩化カルシウム含有の泥を塗布し、温度: 60℃、湿度: 23% の条件下で336時間放置した。その後、目視にてめっき皮膜の腐食状態を確認した。
図4において、6価クロムめっきでは表面のクロムが溶解してNiが露出しているのに対し、JTC-WH2では腐食は見られなかった。したがって、JTC-WH2は6価クロムめっきよりも耐塩害性に優れていることが確認された。
おわりに
本報では、新たに開発した装飾用白色3価クロムめっきプロセス「JTC-WH2」について報告した。前身であるJTC-WHと比べて、性能および管理面が優れたプロセスであるため、早期市場展開を図っていく所存である。