テクニカルレポート

環境配慮型製品 高電流対応ノーシアン銀めっきプロセス(開発中) SKYSILVER JH-10

電子分野

総合研究所 電子技術開発部 佐藤 麻里 Mari SATO 馬 恒怡 Hengyi MA 内田 千紘 Chihiro UCHIDA
      新規技術開発部 櫻井 翔 Sho SAKURAI

はじめに

近年、環境問題への関心の高まりから、電気自動車の需要拡大が見込まれており、車載向け電子部品の生産量も増加が予測される。車載向け電子部品には高い信頼性が要求され、耐熱性に優れ、大電流を流すことができるAg皮膜の応用に期待が集まっている。
しかし、従来のAgめっきプロセスはシアン化合物と毒性金属を含むことから、漏洩による環境汚染や作業者への負担が懸念されてきた。
上記の課題を解決するため、当社ではシアンや毒性金属を使用しない環境に配慮したノーシアンAgめっきプロセスの開発を行っている。JCUテクニカルレポートVol.107では、ラックまたはバレルめっきを目的とした低電流密度でのノーシアンAgめっきプロセスSKYSILVER JL-10(以下、JL-10)について報告した。今回、リードフレーム内装のスパージャーめっきを目的として開発した高電流密度対応のノーシアンAgめっきプロセスSKYSILVER JH-10(以下、JH-10)について報告する。

特長

JH-10の特長を以下に示す。

  • シアンおよび毒性金属を含まず、環境への負荷を低減
  • めっき液の臭気を抑え、作業環境への負荷を低減
  • シアン含有プロセスと同等以上の優れた皮膜特性
  • 99.9%の高い皮膜純度
  • 添加剤の分析管理が可能

作業条件

表1に初期建浴条件、表2に作業条件を示す。JH-10は、JL-10プロセスをベースとし、高電流密度用の安定剤JH-10Cを加えて建浴する。プロセス中の全成分は分析管理が可能であり、連続稼働で一定の性能を維持できる。

表1 建浴条件
表2 作業条件

試験結果

図1にシアン含有プロセスとノーシアンプロセスの基本性能評価結果、図2に耐食性試験(塩水噴霧試験=SST)結果を示す。

図1 基本性能評価結果
※JH-10めっき加工はスパージャー装置を使用

図1の評価結果から、当社で開発したノーシアンAgめっき皮膜は白色半光沢で均膜性に優れ、Ag皮膜特有の低い接触抵抗値を示すことが確認された。また、高電流密度対応のJH-10は75Ah/Lまでの連続稼働試験では、外観の変化および接触抵抗値の上昇は確認されなかった。300℃-30minの熱処理後も接触抵抗値の上昇は確認されず、シアン含有Agめっき皮膜と同等の性能を示した。

図2 耐食性試験結果(24時間後)

図2の評価結果では、シアン含有プロセスのAgめっき皮膜は24時間経過後に、点状の腐食が確認された。一方、JL-10およびJH-10のAgめっき皮膜では腐食が確認されず、耐塩水腐食性に優れることが明らかになった。

おわりに

ノーシアンAgめっきプロセスSKYSILVER JL-10およびJH-10は、シアン化合物と毒性金属を含まない環境負荷を低減するプロセスである。また、めっき液の安定性に優れ、皮膜は従来のシアン含有Agめっきプロセスと同等の導電性を有している。さらに、耐食性試験においては、従来プロセスより耐食性に優れることも確認された。
今後も当社では環境に対応した製品開発を行い、幅広い市場展開を目指していく。