SPECIAL FEATURE
環境配慮型製品の開発

窒素化合物を含有しない化学ニッケルめっきプロセス
ENILEX NI-500

JCUグループは研究開発型企業として、社会のニーズに合致した製品開発を進めています。
「環境・コスト・健康を意識した製品開発」は当社の基本戦略のひとつであり、
今後も市場に環境配慮型の製品を積極的に投入してまいります。
本特集では、当社が開発した環境負荷の低減を可能にする化学ニッケルめっきプロセスの概要と、
開発者からのメッセージをご紹介します。

開発の背景

自動車や水栓金具などに使用されている金属外観の装飾部品の多くは、ABS樹脂などのプラスチック素材にめっきを行うPlating on Plastics(以下POP)という方法により、金属光沢の外観が得られています。POPでは電解金属めっきを行うための下地として、化学ニッケルめっきという手法でプラスチック素材上にニッケルの被膜を形成し、導電性を持たせます。POPに用いられる従来の化学ニッケルめっきプロセスには、めっき液を安定させるために高濃度のアンモニアが含まれています。しかし、アンモニアをはじめとする窒素化合物は土壌や水質を汚染するなど環境への負荷が大きく、排水処理が困難であることが課題となっています。実際に中国などではアンモニアに対して厳しい排水規制が導入されており、最近では窒素が含まれる化合物に対しても規制が課せられています。このような背景から、JCUでは窒素化合物を含まない化学ニッケルめっきプロセス「ENILEX NI-500」を開発しました。

プロセスの特長

ENILEX NI-500は、前述のように窒素化合物を使用しないことが最も大きな特長です。従来プロセスはアンモニアやアミン系化合物などの窒素化合物を多く含むため、排水処理が難しいという欠点がありました。しかしENILEX NI-500はアンモニアだけでなく、その他の窒素を含む化合物も使用していないため、排水規制の影響を受けません。加えて、アンモニアは臭気が強く、作業性が良くないことも欠点の一つでした。ENILEX NI-500のめっき液はほぼ無臭であり、作業環境の改善に大きく貢献することができます。
また、従来の化学ニッケルめっきプロセスでは、性能向上のために鉛化合物が用いられることがありました。鉛は以前から有害性が問題視されており、欧州の有害物質使用制限指令(RoHS指令)などの規制の対象となっています。ENILEX NI-500は鉛化合物も使用しておらず、従来の化学ニッケルめっきに比べて環境負荷が小さいため、持続可能な社会の実現に貢献できるプロセスです。

プロセスの性能

ENILEX NI-500は、従来の窒素化合物を含む化学ニッケルめっきプロセスと同等の性能を有しており、POPで広く使用されているプラスチック素材に対して、全面に均一なニッケル被膜を形成することができます。POPでは化学ニッケルめっきを行った後に、銅やニッケル、クロムといったさまざまな金属の電解めっきを行いますが、従来プロセスと同様の工程で、均一な金属光沢外観を得ることができます。
また、化学ニッケルめっきプロセスでは、安定性が損なわれると液中に金属ニッケルが不純物として析出してしまうことがありますが、ENILEX NI-500のめっき液は従来プロセスと同等の、実際の現場で十分使用できる安定性があります。
このようにENILEX NI-500は、窒素化合物を含まないという大きな利点を持ちながら、従来プロセスと同等の性能を持っています。

おわりに

窒素化合物を含まないPOP向けの化学ニッケルめっきプロセスは、業界でもほとんど例のない技術です。これは、化学ニッケルめっきでは窒素化合物、特にアンモニアを使用せず十分な性能を得るのは難しいことが要因の一つです。 ENILEX NI-500では独自の添加剤成分の開発により従来プロセスと同等のめっき性能を実現し、当社独自の技術として特許を出願中です。ENILEX NI-500は量産スケールに近いパイロットラインでも良好な試験結果が得られており、今後も拡販に向けて一層尽力していく所存です。

開発者からのメッセージ

化学ニッケルめっきにおいて、窒素化合物や鉛などの規制されている物質を一切使用しないことは非常に大きなチャレンジでした。従来の化学ニッケルめっきでは窒素化合物や鉛といった環境負荷の大きい物質を使用することでめっき液の安定性や、性能を維持していました。これらの物質を使用しない場合は性能を維持することが難しいため、開発では実用に耐えうる性能をもつプロセスとして、どのような添加剤の成分を構築するかがとても大きな課題でした。この課題を、環境に影響を与える物質を使わずに解決し、めっき性能やコスト面においても優れた実用的なプロセスにするため多くの試行錯誤が必要でした。
ENILEX NI-500は、従来の化学ニッケルプロセスに比べて環境負荷を軽減する成分を使用していることが特長です。近年、SDGsなどにより環境への配慮が特に注目されていますが、このプロセスはそれらの取り組みに大きく貢献することができます。加えて、従来のプロセスと同様に扱うことができるため、生産性を損ねることがありません。ENILEX NI-500が今後の化学ニッケルめっきの新しいスタンダードになることを期待しています。

総合研究所 基幹技術開発部若田 康輔